写真・図版
英訳が完成し、会見する貞岩しずくさん=2024年12月23日午前11時16分、広島市中区、魚住あかり撮影
  • 写真・図版
  • 写真・図版
  • 写真・図版

 胎内被爆者の証言集を英訳し、電子書籍として一般公開した。製本したものは、昨年12月にノルウェー・ノーベル委員会のヨルゲン・ワトネ・フリドネス委員長らにも寄贈された。

 貞岩しずくさん(25)は新潟県在住だが、広島市南区出身だ。実家は被爆建物の旧陸軍被服支廠(ししょう)の目の前。平和や原爆について自然に興味を持った一方、「何も知らない自分にできることがあるのか」と活動には踏み出せなかった。

 転機は、進学先の関西学院大学であった平和学習の授業だ。2003年に同大の学生が広島市の平和記念公園内の折り鶴に放火したことがきっかけで始まり、広島で戦中・戦後の話を聞く実習などが組み込まれている。

 21年2月にその授業で、原爆胎内被爆者全国連絡会の代表世話人、二川一彦さん(78)に話を聞いた。二川さんは胎内被爆者らの体験記47編を集めた書籍「生まれた時から被爆者」の英訳を考えていたが、担い手がおらず困っていた。

 英語は苦手だし、手記の量も多くて大変そうだ。ただ、当時はコロナ禍だった。「みんな暇だと言っているし、人を集めるくらいなら自分でもできるはず」。インスタグラムなどで声をかけると、瞬く間に協力者の輪が広がった。最終的に全国の10大学から55人が集まり、学生団体「AOGIRI」を立ち上げた。

 学生の多くは、広島や長崎以外の出身だ。オンラインミーティングを重ね、原爆について学んだ。「建物疎開」といった翻訳の難しい言葉をまとめ、自分たちで日英辞典も作った。

 在学中には完成させることができず、大学教育に関する会社で働きながら作業を続けた。昨年12月、電子書籍として無料公開にこぎつけた。

 「一緒に何かやりたい」と、活動を知った仕事の関係者から声をかけてもらうことも増えた。教育の現場で、10~20代に胎内被爆者らの証言を届けることが、被爆80年の新たな目標だ。

     ◇

 証言集は、日本語版と英語版をどちらも電子書籍として「Google Play」で無料公開している(https://play.google.com/store/books/series?id=nfhPHAAAABDT5M別ウインドウで開きます&hl=ja)。閲覧ページにつながるQRコードを添付した、名刺サイズのカードも配布中だ。「興味のある人しか手に取らない本にしては、いけないと思った」

共有